いま、子育て中のハルキストこと村上春樹ファンの間で「#村上春樹で語る育児」というハッシュタグが人気なことをご存知だろうか。
子育て中に起きた出来事や思いを、作家の村上春樹が小説で書きそうな文章にして、Twitterに投稿するという遊びだ。その一部をまとめてご紹介したい。
「それで」と妻は部屋を見回して言った。
「あなたは何を見ていたのかしら」
壁に広がったクレヨンは、ジャクソン・ポロックの前衛絵画に似ていた。
「見ていたよ、ずっと」
「いいえ、見ていないわ。結局のところ、あなたは何も見ていないのよ」
妻の言うことはもっともだった。#村上春樹で語る育児— ぐでちちwith6y♀11m♀ (@gude_chichi) 2019年8月28日
「それで」妻は言った。「どうして貴方は寝かしつけもせずに際限無くあの子と歌っていたのかしら」「それは見解の相違さ」僕は控えめに言葉を紡いだ。彼女にとってこれはすでに弾劾裁判なのだ。「僕だって知らなかったよ。夕食後に一緒に歌を歌うだけで興奮して眠らないなんて」
#村上春樹で語る育児— 月光ほろほろ (@horohoro_g) 2019年8月29日
「何故こんなになるまで放っておいたのよ」
「慣れちゃったんだ。おむつが重い事にも、泣かないでいる事にもね。それに遠くから見れば」僕は言った。「大抵のものは綺麗に見える」
「ねえ」彼女は器用に僕のおむつを替えながら首を振った。
「一生そんな風に生きていくつもり?」#村上春樹で語る育児— 雅樹 (@masazeroque) 2019年8月29日
「嫌なの。」
結局のところ、彼女は僕の話を聞くつもりはなかった。いつから彼女はこうなってしまったのだろうか?僕は溜息をつき、黙って追いかけた。
「今日は長靴にするって決めていたの。」
外は晴れていたが、彼女にとってそれはどうでもいいことのようだった。#村上春樹で語る育児— しぐま (@kasunuma344) 2019年8月29日
あの子にとっては、世界をひっくり返すなんて造作も無いことなのかもしれない。
僕が渡したコップの水は、気がつけば床の上に広がっている。
「誰が飲むと決めたの?」
遠のく意識の中で、世界にあの子の声が響く。
濡れた手が僕の頬に触れた。
#村上春樹で語る育児— ハパ (@niconicoikuji) 2019年8月28日
「つまりこういうこと?近いうちにテープからパンツに変えなければならない、けれどそのタイミングは分からない」
「そう」
僕は答えた。テレビからはピカピカブーが流れていた。息子の好きな曲だ。
「好むと好まざるとにかかわらず、僕たちはそれを適切に判断する必要がある。」#村上春樹で語る育児— たかざと @8M 保育園 (@takazato3) 2019年8月28日
#村上春樹で語る育児
なにしろ夏休みの時間はたっぷりあったし、大抵はよく冷えたコークを飲みながらYoutubeを眺めて過ごした。
「ねえ、明日が何の日か気付いてる?」
「さあね、正直僕にはよく分からないんだ。」
母は気の毒そうに僕の顔を覗き込んでため息をついた。「明日から学校よ。」
— キャラメルマキアート?? (@mojosuke0204) 2019年8月28日
深夜2時、僕はひどく腹を立てていた。
言葉にならない言葉で捲し立てる。
「どうしたの…?」
懇願するような、或いは全てを諦めたような顔をして、彼女は僕を抱きしめた。
違う。結局のところ彼女は何もわかっちゃいなかった。縦だ。横ではない。ーー縦抱っこだ。
— ぴろしゅか (@_piroska_) 2019年8月28日
彼女は柔らかな敷物の上で裸足になり、くるりくるりと廻った。何度も何度も廻った。
「目が回らないの」
私は彼女に問う。彼女の細い髪がふわりと舞って私の視界をけぶらせる。
「廻っているのは世界なの」
そんな笑顔を私に向けながら彼女は机に体をぶつけて泣いた。
#村上春樹で語る育児— 小宮ふみ@1y + 31w妊娠糖尿切迫入院 (@komihumi) 2019年8月28日
視界から消えた影を、二人は同時に追いかけていた。絵画から天使を抜き出したかのような無邪気な笑みが、いつの間にかソファの裏で歪んでいる。明らかに何かが入った形をしているが、彼はそれを認めようとしなかった。
「ウンコね」女は言った。
「ウンコさ」男は答えた。#村上春樹で語る育児— きーん (@Kean_Univ) 2019年8月28日
「大丈夫だよ」と僕は行った。「離乳食なんて無理に食べることないんだ。食べたくないなら食べなきゃいい。僕もよく知っている。あれはひどい味だよ。よくわからない素材が薄い味付けでドロドロに煮込まれてる。まともじゃない。」僕がそう言うと代わりに妻が答えた。「やめて」
#村上春樹で語る育児— maitake55 (@maitake55) 2019年8月29日
「何度でも繰り返すのよ私達」
ベッドの上で彼女は僕を見上げた。
「何度でも?」
「そう何度でも。私が満足するまで貴方は続けるべきだわ」
「君はいつ満足するんだい?」
「さぁ?私にもわからないの」
僕はやれやれと絵本を開く。
カラスのパン屋さん、今夜八回目の開店だ。#村上春樹で語る育児— つなまよら (@tunamayora) 2019年8月29日
どこもかしこも、思わず「やれやれ」と呟きたくなるような事態で満載だ。
これには多くのハルキストが「面白すぎる」「みんな文才がすごい」「秀逸」など互いの文章力と再現力を絶賛するコメントを寄せている。
もし育児に行き詰まったら、一度冷静になって村上春樹の小説の主人公のように立ち振舞ってはいかがだろうか。