本気で妖怪になろうとする男を追い続けた映画『加藤くんからのメッセージ』監督・主演インタビュー【前編】

中2イズムをフォローする

映画『加藤くんからのメッセージ』が、いよいよ12月6日に劇場公開する。この映画は知る人ぞ知る、2014年公開映画で最も“人間臭い”一作となっている。一体、どこが人間臭いのか、説明よりもまずは予告編を観てほしい。


主演の加藤志異さんは36歳・独身。大学受験に失敗し、3浪の末に早稲田を11年かけ卒業。以後、月給9万円の契約社員として病院事務を続けてきた。そのようなどん底生活を続けていくなかで、ある時から彼は「妖怪になる」という夢を抱き始めた。現在は、路上で叫び声をあげながら夢について語る“妖怪演説”をはじめ、自作絵本の読み聞かせなどを行っている。この悲哀に満ちた加藤さんの人生を、OLの綿毛さんは2年間追い続け、1本のドキュメンタリー映画として完成させたのである。

加藤さんの経歴からも察しがつくように、華やかな部分は一切ない。“妖怪になる”という途方もない夢を叫び続ける加藤さんの不器用な生き様を、観客は只々見守り続けることとなる。また、綿毛監督はこれが初めての映像制作であるため、豪華な映像効果が散りばめられている訳でもない。それでも本作は、2012年のイメージフォーラムフェスティバルにて観客賞を受賞すると、以後様々な映画祭に招待される快進撃を続けてきた。そしてこの度、満を持して12月6日よりイメージフォーラムにて劇場公開する。

加藤さんはなぜ妖怪になりたいのか、彼を突き動かす衝動とは何か、そしてなぜ、綿毛監督は作品を撮ろうと決断したのか。強いメッセージ性がありながら、あまりに謎多き本作の魅力を、加藤さん、綿毛監督の両名に直接語ってもらうべく、中2イズム編集部がロングインタビューを試みた。
中2ライン
妖怪になろうとする男との出会い

主演の加藤志異さん(左)と、綿毛監督(右)

主演の加藤志異さん(左)と、綿毛監督(右)


—この度は、劇場公開おめでとうございます。やっと公開、という感覚でしょうか。

綿毛:そうですね。作品は2012年に完成しているので、ようやくという感じです。

加藤:上映してもらえるのが嬉しくてしょうがないし、少しずつ物事が進んでいると実感しています。世界中の人に作品を観てもらいたいですから。

—そもそも、お二人はどのようにして出会ったのでしょうか?

綿毛:初めての出会いは、早稲田松竹の前にあるエスペラントという喫茶店です。静かな雰囲気で大人の飲み会をしているにも関わらず、幹事の説明に茶々入れしている、一人だけうるさい人がいたんですよね。それが加藤さんでした。私、前から好きなお店だったし、喫茶店なので思わず「そんな大きな声出さないで!」って注意したんです。そしたら加藤さんが縮こまってしまい、解散時にわざわざ私に謝って来たんですよ。そのギャップがとても印象的でした。さらに、将来何になりたいか聞けば、加藤さんは「妖怪になりたい」と言うんです。「今、その妖怪活動を友人に撮ってもらっているんだ」と。

加藤:僕は「妖怪活動」を大学卒業後から続けていて、より多くの人に見てもらえれば、なかには面白がってくれる人がいると考えました。そういう人たちと協力し合って、一緒に世界を面白くするためにも、YouTubeへの動画投稿企画を進めていました。

綿毛:しばらくしたら、加藤さんから「友人が忙しくなったので、代わりに撮影して欲しい」と相談が来ました。それで、私も元々は映像作品を作ってみたいと考えていたので、手探りながら始めることにしたんです。最初は10分程度の動画をiPhoneで撮影して、YouTubeに掲載していました。
中2ライン
加藤さんと妖怪活動について

定期的に“妖怪演説”という演説活動を行っている加藤さん

定期的に“妖怪演説”という活動を行っている加藤さん (C)綿毛


—それにしても、妖怪活動とはどういうものなのでしょうか?

加藤:妖怪はかつて、山にいる天狗や川にいる河童のように身近な存在でしたが、現代ではもう、マンガやゲームのようなフィクションの中にしか存在していませんよね。だからこそ僕は、妖怪を現代社会に復活させたいんです。僕は幼い頃に、水木しげる先生の『妖怪世界編入門』を読み耽っていて、世界中に沢山の妖怪がいると信じていました。でも、大人になるにつれ、いつしかサンタと同様で妖怪の存在を否定するようになっていました。
そんなある時、自分が“本当になりたいもの”は何か真剣に考えていて、ふと、それが「妖怪」だと気付いたんですよね。妖怪は、民俗学的な定義では“信仰されない超自然的存在”を指します。僕は、信仰されることなく不思議な行為を続けている、変な奴でいたいんです。それが妖怪なんです。たとえば小豆洗いなんて、小豆を洗っているだけですからね。だから、生身の僕が妖怪を目指して様々なことへ挑戦していけば、現実とフィクションの境界線を少しずつズラせると思っているんです。最終的にはその境界線を無くせると今は信じています。

綿毛:そう言うので、最初は加藤さんに言われるまま撮っていましたが、加藤さんはただ演説しているだけで、「妖怪活動」というものが全然私は理解出来なかったんですよね。しかも「次何やるの?」って聞いたら、「うーんどうしよう」という感じで、定まっていないんですよ!なんじゃこりゃ、と。YouTubeへの投稿も、2回3回と続けていくなかで、ネタが尽きた感が否めなくて。

加藤:そんなこたぁないよ!尽きてない。尽きていなかったけど、本当に試行錯誤で、一緒にやりながら妖怪活動を確立させていこうと考えていたんです。

綿毛:だから私は、徐々に加藤さん自身の内面へ迫っていくような撮影へと変化させました。ある程度まで映像をまとめたところでイメージフォーラムフェスティバルの募集があることを知り、作品を応募してみました。
中2ライン
加藤さんは都合の悪いところに蓋をして生きてきた

2年間、加藤さんの活動を追い続けてきた綿毛監督

2年間、加藤さんの活動を追い続けてきた綿毛監督


—確かに導入部分こそ「妖怪活動」にフォーカスしていますが、途中から加藤さんの半生を振り返り始め、最終的には加藤さんの苦悩や人間臭い部分にガツガツ踏み込んでいく構成となっていました。

加藤:綿毛さんは僕の人間性を深掘りしたいから、知らない間に、僕の周りの知人や友人にもインタビューし始めていて、完成するまで全然教えてくれなかった。

綿毛:加藤さんって、自分の都合が悪いことは絶対に話さないんですよ!それ以外なら延々と喋り続けられるのに。昔、加藤さんが自分の話を7時間くらい語り続ける「百物語」という企画を自宅で開催したとき、私、撮影もせず10分で帰りましたから。

加藤:その時の僕はルームシェアをしていて、2~30人集まったけれど、最後まで聞いてくれた人は1人だけだったかな。

綿毛:加藤さんって語り部みたいですよね。何度も同じ話をすることで、要約されたりして出来上がっている。話に切羽詰まった感じや、今の気持ちみたいなものが無いんです。だから、私としては加藤さんが話したがらない部分のほうに興味が湧きました。

加藤:僕は、みんな妖怪活動に興味がある訳で、僕の人間性なんて興味ないだろうって思っていたの。

綿毛:興味以前に、加藤さんが喋りたがらないんです!本編でも自分に都合のいいことばかり話していて、私が、親から借金したこととか突っ込むとイライラしだして。終盤に入ったところで早稲田大学のベンチに腰かけ、早稲田の話をインタビューしていたら、途中で切り上げて帰りましたよね。そんな、自分の都合の悪いところに蓋をして生きている加藤さんを見て「これは万人に通じる部分がある」と私は直感したんです。
中2ライン
加藤さんの人生を翻弄し続けた「早稲田大学」

当時の心境を語る加藤さん

当時の心境を語る加藤さん。


—確かに“早稲田”については、本編でも大きく尺を割いていました。

加藤:僕の青春時代において、重要な部分ですからね。僕は3浪の後、明治大学の夜間部に2年在籍し、そこから早稲田に入学しました。様々な事情で(そのことは本編でも語られている)休学し、32歳の時に復学しました。結局、卒業までに11年かかったんですよ。高校時代の僕は、周りの受験ムードに押されて受験雑誌なんかを読むような人間で、その雑誌に「早稲田には5浪した奴も来ている」と書いてあり、そこまでして入学したい人がいる大学の存在に衝撃を受けたんです。早稲田に行けば何かが得られるのではないかと思い、「早稲田に行こう」と心に誓ったんですね。人生で初めて自ら大きな決断をしました。
しかし僕は浪人を繰り返し、入学後も失恋したり休学したり、しまいには漫画家になる夢に挫けてしまったり。とてもじゃないですが、高校時代に思い描いていたような、“自分の夢を見つける”には程遠い状態でした。32歳で復学を決断したときも、こんな行為に意味はないだろうと本当は考えていました。この歳で卒業したところで、何のプラスにもならない。でも、このまま中途半端にしていたら、自分はずっとダメなままかもしれない、そう思ったんです。卒業することが自分の自信に繋がると信じ、僕は大学へ通い直しました。その結果、僕は「妖怪になる」という夢を見つけることが出来たんです。卒業式の時に、「妖怪になる!」と宣言できたときには、「あぁ、僕はやっと早稲田を卒業出来るなぁ」と実感しましたね。

—宣言して、ある意味吹っ切れたのですか?

加藤:そこでやっと人生が始まった感じがしました。今はメンタルも随分変化して、在学中より元気がありますね。これまでずっと迷い続けてきましたから。自分が何に向いているのか分からない、というより、何にも向いてないような気がしていて。

綿毛:「吹っ切れた!今は全然違う」って言っていますが、加藤さんは今でもずっと悩み続けていますよ。公開直前の今も「劇場がガラガラだったらどうしようか」と、夜も眠れないようだし、悩みが尽きない性格は基本的に変わっていないです。

加藤:いやだって…配給や宣伝をしてくれる方々を巻き込んでいる訳じゃないですか。だから頑張って借りを返さなくちゃいけない、お客さんを沢山呼んで、なんとか大成功させないと…って考えてしまうんです。

綿毛:加藤さんは妙に律儀なところがありますよね。約束は守るし、人を見捨てたりしない。そういう優しさのある男です。遅刻もしない。

>>加藤さん、綿毛監督へのインタビュー後半はコチラ
中2ライン
映画『加藤くんからのメッセージ』
2014年12月6日(土)より、渋谷・シアター・イメージフォーラムにてレイトショー、ほか全国順次公開
夢を必死に追いかけるも挫折した男・加藤志 異(36歳・独身)が、“人の夢を応援する”妖怪になることを目指し、がむしゃらに突き進む姿を追った、人間応援ドキュメンタリー。
『加藤くんからのメッセージ』公式サイト




中2イズムをフォローする

こちらもオススメ